ノマドの足跡

旅、酒、ニュース、仕事関連などなど。思いつくまま書いたものです。

想田和弘 映画 『精神』

先日、ある先生が、ご友人で映画監督の想田和弘さんをお招きして、新作映画『精神―Mental―』の試写会を行っていたのに参加させていただきました。
映画を作っている人とその作品を見ながらお話しできる、ひじょうに貴重な機会に恵まれました。

想田さんの新しい作品は、前作『選挙』と同様、「観察映画」と呼ばれるもので、音楽、ナレーション、テロップなど、一切使用しないドキュメンタリーです。もちろん編集はされていますが、基本的にとても長いカットで構成され、カメラの前で起きている出来事をただひたすらに、そして淡々と映し出していくというものです。

その手法もさることながら、その対象もかなり「特異」といえるでしょう。
前作『選挙』では、市議会議員候補に密着し、その選挙活動を「観察」していくというものでした。そして、新作の『精神』では、ある精神科の診療所および宿泊施設や作業施設などが舞台となっています。
前作と、対象はかなり異なっているものの、その「特異さ」の点では共通しているといっていいかと思います。
そして、その「特異」な態様ゆえに、作品の制作そのものが、きわめて「あやうい」ものであったことは容易に想像できます。

試写会の晩、想田さんを囲んで食事をする機会がありました。
そのなかで、たいへん興味深かったお話しの一つが、そうした制作過程における「危機」のウラバナシでした。
まず、『選挙』においては、事前運動を収めたテープの提出を求められ、撮影許可の取り下げになりかねなかったということ。
選挙の事前運動は公職選挙法で禁止されており、その事実があること自体が法に触れかねなかったからです。
そして、『精神』においては、映像に映り込んでしまった患者の父親に激怒されたことがあったといいます。
いずれも、撮影打ち切りになりかねない、危機的な局面だったらしいです。
ところがそこで、想田さんの言ったことがとても印象に残っています。
想田さんは、「話を尽くせば相手には必ずわかる」という根拠のない新年が自分のなかにはあるとおっしゃっていました。
きっと、想田さんの考え方のベースには、他者にたいするそこはかとない信頼のようなものはあるのではないかと思いました。
こうした危機を切り抜けるのに、実際はいくつもの偶然に救われたとおっしゃっていました。
しかし、そうした他者にたいする「信頼」が、こうしたきわどい内容の作品を、それも素のままにさらけ出す作品へと作りあげることを可能にしたのではないか、僕はそう思いました。

映画『精神』は2月のベルリン映画祭にも招待されたとのこと。
日本では来年6月の公開のようです。






想田和弘さんブログ
http://documentary-campaign.blogspot.com/

映画『精神』公式サイト
http://www.laboratoryx.us/mentaljp/


『選挙』(DVD)

選挙 [DVD]

選挙 [DVD]