ノマドの足跡

旅、酒、ニュース、仕事関連などなど。思いつくまま書いたものです。

翡翠色の蝉

小学生の頃、よく遊んでいたイチジクの木に、夕方ごろ、ノコノコとセミの幼虫が登ってきているのを見つけました。
枝切れにとまらせて家に持って帰りました。
羽化すなわちセミになるところがみたかったからです。
カラをやぶって背中から出てきたセミは結局全部カラからを抜けきれずに死んでしまいました。



それから30年(長っ!)


土曜日の夜。昼間はセミの鳴き声でやかましい公園の横を歩いていると、道路の上をノコノコ歩くセミの幼虫を見つけました。
羽化するために土の中から出てきたのでしょう。
それにしても、こんな道路の上を歩いているといつか轢かれてしまうに違いありません。
(30年前の!)子どもの頃を思い出して、枝切れにとまらせてうちに持って帰ることにしました。


夜10時頃、枝にじっととまったままの幼虫の体に変化が。
頭がふくらんできて緑色を帯びています。
やがて頭部のカラが割れて、羽化が始まりました。
見えるか見えないかくらいのスピードで少しずつ出てきます。
全部出るのに、1時間以上かかりました。


なかから翡翠(ヒスイ)色をしたきれいなセミが登場しました。
まだ羽は縮んでいます。
ずいぶんのけぞっていて落っこちるんじゃないかととても心配していました。
が、あるときぐいっと体を引き寄せて、自分の足で枝につかまりました。
それから、見る間に羽が伸びてきました。
羽は完全に透明で、葉脈のような無数の筋が通っています。
どうやら無事、羽化に成功したようです。






それからずーっと枝にとまっていました。
羽が堅くなり色が黒くなるまでまだしばらくかかりそうでした。
夜中になって僕は寝ました。


朝、起きてみると枝に「抜け殻」だけがとまっていました。



セミは、成虫になる前、地中で10年ほど過ごすらしいです。
しかし外に出て成虫になったあと、「セミの命は一週間」。


10年も下積み生活で、やっと出てきて踏んづけられちゃあ、かわいそうです。
というより、なんだか、他人ごとのようには思えません。
文字どおり、「日の目を見ること」ができてよかった。


毎日その公園の道を歩きます。
かましいほどの蝉時雨です。
うちで羽化したあのセミも、今頃どこかで鳴いてるでしょう。
それにしても、あれだけたくさんセミがいて、それでも成虫になるのはほんの一部なんでしょうね。