ノマドの足跡

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【ホーチミン・シンガポール】 アジアの「茶」

バックパッカーのバイブルともいわれる沢木耕太郎の作品『深夜特急』にこんなくだりがあります。


「何ということだろう。私は、あのイスタンブールのハナモチ氏が言っていた通り、ユーラシアの果ての国から出発して、アジアからヨーロッパへ、仏教、イスラム教の国からキリスト教の国へ、チャイ、チャといった「C」の茶の国からティー、テといった「T」の茶の国に入ったものとばかり思っていた。事実、ギリシャもイタリアも、フランスも、スペインもすべて「T」の茶の国だった。ところが、そこを通り過ぎ、ユーラシアのもう一方の端の国まで来てみると、茶はふたたび「C」で始まる単語になっていたのだ。」
沢木耕太郎深夜特急6 南ヨーロッパ・ロンドン』新潮文庫、161−162頁


なるほど、アジアでは、日本で「ちゃ」、中国でも「チャ」(標準語)、インドでは「チャイ」などと呼んでいます。
対して、ヨーロッパでは、英語で「tea」、フランス語で「the」など。
ちなみにこの『深夜特急』で沢木耕太郎は、ポルトガルでお茶を「cha(シャ)」と呼ぶことを発見して感動しています。


しかし私にはどうも腑に落ちない点がありました。
というのも、マレー語もインドネシア語も、お茶は「teh(テー)」といって、「T」ではじまるからです。
どちらも東南アジアの主要国ですし、インドネシアは人口2億人以上の大国。
アジアは「チャ」の地域であるというのには、ちょっと例外が多すぎやしないか?そんなふうに思っていたわけです。
「アジアはほんとうに「チャ」の地域なのだろうか???」



この、「茶」をめぐる疑問が、解けるのではないか?
そんな記述を発見しました。
シンガポール国立博物館でのことです。
そこでの説明によれば、英語の「tea」は17世紀のオランダ語「thee」からきており、そのオランダ語は福建語の「te」から来ているというのです。
おそらく、イギリスよりも早くにアジアに進出していたオランダが、中国でもお茶の本場である福建から、「te」としての「茶」を持ち込んだということなのでしょうか。
そしてそこから、イギリスやフランスといった西ヨーロッパ諸国に広がった、そういう見方ができるでしょう。
要するに、西欧の「T」ではじまる「茶」は、もともと福建語から来ているというのです。
他方で、福建省から南方へ下り、マレー半島インドネシアなど東南アジアに「T」ではじまる「茶」が広がっていったとすれば、ここに西欧と同じ「T」ではじまる「茶」が存在するのも頷けます。
(ちなみに、私の好きな「バクテー」は漢字で「肉骨茶」と書きますが、その福建語読みです。ちなみに標準中国語では「ロウグウチャ」と読みます。この「バクテー」という食べ物は福建地方の起源といわれており、現在ではマレーシアからシンガポールにかけて広く食されている料理です。)

ちなみに、ベトナムで買ってきた「ロータスティー」の包装を見ると、「tra」と書いてあります。「茶」の意味のベトナム語です。
これも「T」です。
ただ、発音は「チャ」になります。
ベトナムでは人名などで「tran」とかいて、「チャン」などと発音するのを知りました。
ベトナムはもともと漢字文化圏で、そこにフランス人が入植する際、現在のアルファベットと記号を用いた表記が発明されたと聞きます。
思うに、フランス語で「ch」は、「シャ」のような発音になるので(「chanel」が「チャネル」ではなく「シャネル」と発音するように)、フランス語になく中国語に多い「チャ」の発音を表記する際に、「tr」を使ったのかもしれません。
とするとこれは、かならずしも「テ」の発音ではないわけで、むしろ「チャ」なのです。(ただ、表記の点のみにおいて「ch」ではなく「t」ではじまるというのにすぎません。)

いずれにしても、「茶」をめぐる、「T」と「C」の違い、それは、「アジア」と「ヨーロッパ」という違いではなく、意外に近いところ、つまり中国方言のレベルにあったということなのかもしれません。
もう少しいろいろ調べてみるとおもしろいかもしれません。


↓ スコール明けに、街角で「kopi(コーヒー)」を・・・
って、「Teh」ではないかのい!!


これが「バクテー(肉骨茶)」 ↓
ポークリブを茶や漢方などで煮込んだものです。


マレーシア、ボルネオはコタキナバルの店で