【寄席】 国立演芸場4月上席
国立演芸場4月上席は30周年特別番組。日替わりの出演者によるプログラムです。
昨日6日は、トリに権太楼師匠が上りました。
演目は次のとおり。
(開口一番)三遊亭玉々丈 「子ほめ」
柳家花緑 「権助提灯」
近藤志げる アコーディオン漫談
古今亭志ん弥 「締め込み」
ダーク広和 奇術
小満ん「寝床」
(仲入り)
バラクーダ コミックバンド
柳家さん吉 「蔵前駕籠」
和楽社中 太神楽
柳家権太楼 「笠碁」
トリの権太楼は「笠碁」をかけました。
どうして「笠碁」をかけたのか?
そんな疑問がすぐに頭の中をよぎりました。
はじめ、マクラではネタを探っていたように思います。
自分が長屋の出身であること(ここで長屋の噺か?と思う)、親父が大工であったこと(「大工調べ」?)、路地で将棋をやっていたこと、そして碁の話へ。ここから「笠碁」に入りました。
昨日は平日ですし、場所も国立ですし、おそらく権太楼目当てが多かったでしょうし、そんな、ちょっとばかり「コア」な客層を読んだ可能性もあります。
では、こうした「コア」な客に対して、どうして「笠碁」を演ったのか?
長雨の続く「笠碁」の場面設定は梅雨か秋雨。対して今は花も盛りの季節。
もちろん、バッチリその季節の噺を演る必要など毛頭ありませんし、どちらかというと季節を少しばかり先取りするのが普通かもしれません。が、どちらにしても、季節外れです。何よりも、塔の権太楼自身が、この話を秋の噺に分類しています(柳家権太楼『江戸が息づく古典落語50席』PHP文庫)。
しかも同書のなかで、権太楼は次のようにも書いているのです。
「この『笠碁』も、天気は悪いが、ゆったりした時間の流れが感じられます。『こんな爺さん、いるよなあ』という雰囲気です。しかし、場内をそういう雰囲気にしてしまうのは、一朝一夕にできるものではありません。テンポや勢いで持って行く噺ではないので、登場人物の年齢にだいぶ近くなった私ですが、『笠碁』はまだできません。」(160頁)
そう、この噺は「できない」と、権太楼は断言しているのです。
権太楼がこう書いたのは4年前。もちろんその間、齢を重ねてはいるわけですが、それにしても4年。
「笠碁」といって思い当たるのが、権太楼の師匠五代目小さんの十八番中の十八番であったということ。そしてこのことをとりわけ強調しているのが、小さんの弟子にして実孫でもある柳家花緑。以前、ここでも紹介した彼の著書のなかで、彼の「笠碁」への挑戦がきわめて重要なエピソードとして取り上げられ、それで一章を書いた上に、花緑番「笠碁」の台本を収録しているほどです。その花緑が著書のなかで、「この話は大切に演じていきたいのです。なぜなら『笠碁』は、私のこれまでの落語家人生すべてをかけてつくったといっても過言ではありません。いわば、今の柳家花緑の集大成なのですから」(142頁)と述べています。しかもそのうえで、「私がこれだけ大切に思ってきた『笠碁』ですが、それは柳家小さん一門の弟子であれば誰でも同じです(143頁)と断じています。
それは、同じ小さん門下の権太楼にしても同じはずです。しかしその権太楼も、4年前までは分自分は「できない」と断言していたのです。
その花緑が、自家版「笠碁」を初めて高座にかけたのが2年ほど前。2007年の10月。花緑は私と同い年ですから当時36歳。権太楼は私の父親と同い年ですから現在62歳。半分、とまではいきませんが、かなり若いです。自分の年齢では「できない」と考えていた「笠碁」を、親と子ほどの年の差のある花緑が、オリジナル「笠碁」を高座にかけたことを、権太楼はどう考えていたのでしょう?
その花緑が、昨日の国立では最初に上がりました。
そしてトリが権太楼です。
花緑版「笠碁」は、その著書で詳細に記されているとおり、かなり時間を掛けて手を入れ直しています。残念ながらその実演を私はこれまで観たことがありませんが、かなりわかりやすくておもしろく、そして「花緑風」な味付けに出来ているように思います。
対して昨日の権太楼。その「笠碁」はほとんど「小さん版」であったように思います。台本はそのまま、しかし、身振り、表情、そして細かいギャグなどで完全に「権太楼ワールド」に作り替えていたように思いました。
ところで、最初の問い。
どうして権太楼は「笠碁」を演ったのか?
客層を意識したのか?
花緑を意識したのか?
もうその年齢になったと自覚したのか?
・・・ ・・・
そんなことを考えてしまう。。。
だけどその一方で、「でもたいした理由など無いのかもしれないな」、そんなふうにも思ってしまいます。
ただただ愉快で楽しい、それが「権太楼ワールド」の真骨頂。
あまり「意味」を問うのは「野暮」なんでしょう。きっと。。。
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柳家花緑『落語家はなぜ噺を忘れないのか』
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